CRAFT作家展 美濃編
お気に入りの1点に出会う、「オンラインCRAFT作家展」
2021年7月から、CRAFT STOREの新しい企画として始まる「オンラインCRAFT作家展」。
全てがハンドメイドだからこそ生まれる器の個性。そこには作り手の思想や信念、人柄が映っているもの。オンラインではなかなか出会えない、作家さんの作品をご紹介していきます。それぞれの作風にも注目して、ぜひ特別な1点をみつけてください。
記念すべき第1回目は、日本一の陶磁器生産地として有名な美濃。岐阜県南部、特に多治見市や土岐市など南東部の東濃と呼ばれる地域には、古くより焼き物の産業が根付いています。
美濃は他の焼き物の産地と比べて、特に作家さんが多い地域です。美濃の器づくりはひとつの伝統技法にとらわれないのが特徴で、作風も実に様々。陶磁器の学校や制作活動を支える環境が整っているのも、個性豊かな作家さんが多く集まる理由なのかもしれません。
今回は美濃を拠点にする数多くの作家さんの中から、ご縁があって出会った5組の作家さんの工房を訪れてお話を伺ってきました。いわゆる作家物は、その人を知るとより一層楽しめるもの。それぞれが持つ、ものづくりに対する想いや熱量を感じながらお楽しみください。
アサ佳さんの作品は「どうやって作ってるんだろう」というくらい繊細で複雑なデザインが印象的。
「よくやる作り方として『鋳込み』があります。量産に適した作り方なんだけども、そこから手を加えることで、量産では出来ないことをやっているんです。」
たとえば二重タンブラーの網目部分は、一つ一つナイフを使い、手で削って穴を開けています。
「削る場所は感覚ですね。土ってどんどん硬くなってくるから、下書きしてる時間がないんですよね。」
「工芸って『質感』ですよね。実際に触ってみると、見た目に反してすごくすべすべしてるとか。すごく軽いとか。量産ではできない面白さがあります。」
確かにアサ佳さんの作品も、有機的でやわらかそうだけどつるっと硬質であったりと、見た目とのギャップが印象的です。
「土と格闘、みたいなこともやってみたんですけど全然合わなかった。格闘というより、コントロールしたいですね(笑)」
釉薬を試すカラーチップを見せてもらいながら仰った言葉が印象的でした。作家さんによって得意なことや、表現したいこと、その手法はまったく変わってくるのです。
アサ佳 プロフィール
1985 埼玉県出まれ
2008 明治学院大学 卒業
2013 岐阜県多治見市意匠研究所 修了
岐阜県土岐市に工房を構える
2014 孵化展 (ノリタケの森ギャラリー)
2015 茶-今日のしつらえ (札幌芸術の森)
その他グループ展、クラフトフェア 多数
若手陶芸作家ユニット「ミノヤキセンパイ」に参加
「壽泉窯」の安藤寛泰さんは、その名の通り結晶のような表情を見せる「結晶釉」の表現で知られる作家さんです。安藤さんの作品は海外でとても人気があり、料亭や高級ブランドからのオファーも来るのだそう。工房のすぐ隣りにあるギャラリーにお邪魔させて頂きました。
「結晶釉って窯の1,2度の違いですごく出方の違いが出るんです。釉薬を厳密に調合しても、焼く段階でかなり変わってきちゃうんです」
2つと同じものはない、というのも結晶釉の魅力です。CRAFT作家展では、個体差が強く出る一部のアイテムは一枚ずつ写真を撮り、一点物として出展することにしました。
「これいいなあ」とじろじろ見てたりすると「それかわいいでしょ」と、すかさず作品に対するアツい愛が飛んできます。
安藤さんは京都で陶芸を学び、結晶釉の技術を身につけたのだそう。結晶釉は京都の歴史ある窯元が有名ですが、安藤さんは新しい表現を目指しました。
「結晶釉って『和の器』がほとんどなんだけど、もっと表現の幅を広げてみたいなと思ったんです。最近ではピンクと水色の、サーフカラーみたいな器を作ってみたり。」
レストランからもオリジナルの器の依頼を受ける安藤さん。このご時世で少し仕事が減ってしまったのだそう。その間に色々なテストをしているそうで、ギャラリーにはユニークなデザインの作品が並んでいます。
「これとか見方によっては、車の窓の水滴とか、古代の壁画に見えてきたり。いろんなことが想像できて面白いんですよね。でも作るのがすごく難しくて、実はいまだにコツがつかめてないんです」と楽しそうに語っておられたのが印象的でした。
「オブジェみたいに、棚に飾って欲しいです」
かくいう私も、このとき抹茶碗を衝動買い。家に飾って毎日愛でさせてもらっています。
安藤 寛泰 プロフィール
岐阜県多治見市生まれ。 京都府立陶工高等技術専門校卒業後、多治見市陶磁器意匠研究所を修了し、現在は壽泉窯(じゅせんがま)にて作陶。
結晶釉を使った作品を中心に制作しています。
駅にほどなく近い、一見すると工房があるとは思えない一角に3RD CERAMICSはあります。工房として使う建物も、もとは住居を兼ねた飲食店だったのだそう。ろくろや釉薬、試作品が並ぶ様はさながら陶磁器のラボのようでした。
長屋さんと土井さんは、多くの作家を輩出する「多治見市陶磁器意匠研究所」で出会い意気投合。「陶芸作家」という響きに、なんとなくしっくりこなかったのだそう。試しに何かはじめてみよう、というところからスタートし9年。3RD CERAMICSという今の形になったのだといいます。
「この地域って、個人でやっている作家とメーカー、窯元が入り乱れているんですが、その真ん中みたいなニュアンスで量産と手作りの間を探ろうと。第3の切り口で焼き物が出来ないかなと思ったんですよね。」
いわゆる「作家もの」は形や質感を繊細に表現したり、量産では難しい表現を突き詰めたものが多くあります。3RD CERAMICSのアイテムはそれとは違い、かといって大量生産のようなカッチリと決まった形をしているわけではありません。制作と生産のあいだ、これが第三の陶磁器「3RD CERAMICS」ということです。
自らろくろを回したり、原型を手で作りつつも、量産の技術も使う。作家さんの作品ほど敷居が高いわけではなく、量産品よりも「手」を感じる。そのバランスが3RD CERAMICSの魅力なのです。
3RD CERAMICS プロフィール
2014年より岐阜県多治見市を拠点として活動を開始。
土井 武史さんと長屋 有さんによるものづくり。
大道宏美さんの工房は、移築したという古民家のご自宅にあります。窓からの見晴らしが良く、きれいに整頓されていました。
大道さんの作品の特徴は、サラッと白い磁器にとても細い呉須の直線。呉須とは、磁器の絵付けに用いられる蒼い絵具のこと。実は、定規も使わず手で描いているのです。
「筆でひたすら描きます。最初は手が震えてたんですけど、慣れるともう全然。シュッと。」
ミニマルな印象ですが、近づいてよく見ると手描きらしい濃淡ある線。これがたまらなく可愛いのです。遠目と近目で印象が違う面白さ。線の上には釉薬がちょんと乗せられていて、ぷっくりとしています。
「雨というか、線がモチーフのものが多いです。線がすごく好きですね。陶芸の前は絵を描いていて曲線が好きだと思っていたんだけど、陶芸を始めると直線が好きだということに気づきました。」
「線のごまかせない感じ。たとえば漫画だと、線一本の描き方にとても意味がありますよね。その面白さに気づいたんです。」
もう一つの特徴はその繊細な薄さ。白い磁器に光が透けて、裏の絵付けが見えるほど薄いのです。
「カチッと作りたいから、土の良さみたなのを殺しちゃうんですよ。だから磁器が合ってるんです。」
釉薬をつけず、生地の質感にスッと線を引く。これ以上ないほど要素の削られたミニマルなデザインですが、そこには確かな温かみがあります。
作品には往々にして「その人らしさ」がにじみ出るもの。大道さんの作品も、きっと実直なお人柄を映しているような気がしました。
大道 宏美 プロフィール
1974年 埼玉県北本市生まれ
2004年 岐阜県立多治見工業高等学校専攻科卒業
2006年 日本クラフト展 佳作賞(ʼ11入選)
2007年 織部クラフト・デザイン大賞展 銀賞
2014年 伊丹国際クラフト展 入選(ʼ16)
2017年 工芸都市高岡クラフトコンペティション入選
2018年 女性陶芸家6名の表現
(とうしん美濃陶芸美術館)
2019年 第12回現代茶陶展 入選(ʼ17)
2021年 国際陶磁器フェスティバル美濃'21 入選
7月30日からは、「大道 宏美 ウツワ展」を鎌倉で開催。
期間:2021年7/30(金)~8/11(水) ※木曜日休み
11:00~19:00(最終日17時閉店)
会場:鎌倉倶楽部 茶寮小町
7/30、31、8/1は大道さんが店頭にいらっしゃるそう!ぜひ足を運んでみてくださいね。
親子二代で営まれている荘山窯。林健人さんは職人として製造に携わりつつ、作家として作品を作られています。代々陶磁器の製造に携わり、先代からろくろを回すような、手で作る窯を始められたのだそうです。
「この地域は、安土桃山時代からの焼き物の流れがあるんです。志野ってのはその頃からの器で、今でも名残があるんですよ。他の窯や作家さんは斬新だったりおしゃれなものを作ってるけど、うちはどうも昔の感じから抜けきれないもんで。」
作品は土ものらしい荒々しく大胆な表情。仰るように第一印象としては「昔の感じ」かもしれません。しかしその大胆さがもはやポップで、逆に今までに無い新しさを感じてしまいました。
工房では絶えずカラカラとした音が響いていました。伺ってみると、釉薬を混ぜてるんです、とのこと。原料の入った瓶を機械で回して撹拌していました。
周りには様々な種類の原料、そして何やらメモが貼られた瓶が大漁にありました。陶芸への愛が伺えます。「曜変天目みたいなの出ないかな、ってやってるんですけど(笑)」
作業場には大きな写真集があり、器のデザインとして参考にするそう。
「こういう雰囲気の器がほしいと依頼が来た時に見るんです。たとえば安土桃山の器。描かれているのは鳥や草とかそのへんの何気ないモチーフだけど、めちゃくちゃ上手いんです。簡単なようで描けないんですよ。」
伝統から学び、常に研究するその姿勢から生み出される表現。ちょっと憧れてしまいます。
林 健人 プロフィール
1967年 岐阜県土岐市生まれ
1986年 岐阜県立多治見工業高校デザイン科卒業
1990年 名古屋芸術大学彫刻科卒業
1994年 父のもと荘山窯にて陶器の師業を始める
以降、全国各地のギャラリーにて個展を開催、現在に至る
・虫眼鏡の画像を押すと拡大して商品をご確認いただけます。拡大後、商品の他の画像もご覧いただけます。
・全て手づくりのため、画像と風合いが異なる場合がございます。器の個性としてお楽しみください。
・個体差があるため、重さやサイズはおおよその表記になります。虫眼鏡画像よりご確認いただけます。
・ラッピングの対応はできかねますのでご了承ください。